アスレティックトレーニング備忘録

米公認アスレティックトレーナーがスポーツ傷害、リハビリ、トレーニングなどについて不定期で書いてます。

投球数とケガの関係

こんにちは。イマザキです。
少し前の話になりますが、ツイッターでこのような記事を見かけました。

www.nikkansports.com

 

高野連と言えば、先日ダンス部の発表会に野球部員が出たことが問題となり川渕さんも激怒されたと話題になりましたが旧態依然な態度には正直がっかりします。

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自分たちも甲子園で入場料取ってるだろとか、アメトーークの甲子園芸人の時にブラスバンドの演奏取り上げてたろ、それは他の部活の商業利用じゃないのかとか色々思うところはありますが、そちらは僕の専門ではないので、今回は上記に挙げた球数制限について書こう思います。

 

1、ピッチスマート

よく野球界で球数制限について話が出るときに参考にされるのがMLBの出しているピッチスマートというガイドラインです。このガイドラインでは7歳から22歳まで各年齢に応じた試合での球数といくつかのアドバイスが述べられています。例えば、高校生の年齢でいうと15-16歳は95球、17-18歳は105球となっており、連投の場合は30球、中1日の場合は45球となってます。(以下の図を参照)

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Pitch Smart

球数制限の話が出る際、つい何球かという話が多くなってしまいがちですが実際にこのような投球数のガイドラインを守ることによってどの程度障害が防げるのかという事はあまり聞いたことがないでしょう。僕もそういえばどのくらい効果があるのかと思い調べてみました。

 

2、投球数と疲労、ケガ

2002年の9歳から14歳の投手を対象にしたLymanらの論文によると、1試合当たり24球以下の投手に比べ75球から99球投げた投手は1.52倍、100球以上投げた投手は1.77倍肩の痛みを感じる可能性が高いことが示唆されています。また13歳から14歳に限定した場合この数値はそれぞれ2.17倍と2.15倍に上がります。ちなみにこれは肩の痛みですが肘の場合は統計的な有意差は確認されてません。

上の値は1試合の投球数ですが、シーズンを通しての投数だとどうでしょう。同じ論文に寄りますと、シーズンを通して200球以下の投球数の投手と比べ600球以上の投手は肘で3.34倍、肩で2.90倍痛みを訴える可能性があるとあります。また肩に関しては800球以上で3.29倍にまで膨れ上がります。さらに2011年のFleisigらの論文によると、1年間に100イニング以上投げる投手はそうでない投手に比べ3.5倍ケガをするリスクが高くなることが示されています。ちなみに夏の甲子園で東京代表になるには予選だけで6~8試合勝つ必要があるのでエースに頼りきりのチームだとすぐに年間100イニングはいってしまいそうです。これらの結果を見ると1試合の投球制限も大事ですがシーズンを通しての投球数や投球回数の方が大事なのかなという印象を持ちます。

また別の項目として連投の影響も考える必要があるでしょう。2014年のYangらの論文によると、2日連続で投げた投手はそうでない投手と比べ4.36倍腕の疲労を感じ、2.53倍痛みを感じるようです。日本の大会などでは連戦になることも少なくないですから見逃せない数値ですね。

先ほどから、痛みとか疲労とか書いてるけどケガじゃないじゃないかと思う方もいるかと思います。しかし痛みや疲労を抱えたまま投げることはケガにつながります。例えば先ほどの論文によると、よく疲労を抱えたまま投げると答えた投手はそうでない投手と比べ7.88倍ケガをする可能性があり、たまに疲労を抱えたまま投げると答えた投手でも3.71倍ケガをする可能性が高まります。痛みの項目でも似たような値になり頻度に応じて7.50倍と5.40倍になります。

 

まとめ

投球数、投球回数、疲労などなどいろいろ要素はありますが、どれも統計的にはケガにつながりそうだという事が分かります。いくらケガの可能性やそれに伴って選手生命が短くなる可能性があるといっても、選手としては勝ちに拘りたいものです。また監督としても自分のチームだけ球数を抑えて、勝負所で2番手、3番手のピッチャーに交代するのは勇気がいることだと思います。なので選手の健康を守るためには強制力のあるルールを施行することは重要ではないかと思います。

とは言うものの球数制限がどの程度、高校野球の戦術等に影響するのかは未知数です。例えば私立がさらに有利になってしまうのではという意見もあります。(個人的には投手の才能に頼れない分、指導者のレベルの違いが如実に出てしまうとは思います。)そこも含めて今回のニュースで挙がった新潟をモデルケースにして球数制限の良し悪しを見極めればよかったのにと非常に残念に思います。高野連はもっと時代に即した対応をして欲しいですね。

ではまた。