アスレティックトレーニング備忘録

米公認アスレティックトレーナーがスポーツ傷害、リハビリ、トレーニングなどについて不定期で書いてます。

熱中症についての基本知識

こんにちは。イマザキです。

 

今回は暑くなって来たという事で、熱中症に関する基本知識をおさらいしようと思います。

 

熱中症とは?


熱中症(Exertional Heat Illness)は体温が上がることに寄る障害または症状の総称で主に熱痙攣(Heat Cramp)、熱失神(Heat Syncope)、熱疲労(Heat Exertion)、熱射病(Heat Stroke)から成ります。それぞれの特徴と対応を表にまとめてみました。

 

 

原因

症状

対応

熱痙攣

脱水や電解質の不均衡、神経系の疲労等

筋の痙攣。

水分と電解質の補給

ストレッチ

アイスマッサージ

熱失神

脱水。抹消部位に血流がたまることに寄る、中枢系の血流不足。

めまい、疲労感、吐き気など。

涼しい日陰での安静。

水分補給。

熱疲労

脱水。血流の低下。心拍出量の不足。血圧の低下。糖分の不足。

のどの過度な渇き。口と舌の渇き。虚脱感、疲労感、失神、動きの協調性の低下。吐き気、めまい、頭痛。

直腸温は40.5℃以下。

涼しい部屋での安静。アイスタオル。水分補給。

直腸温の測定。

熱射病

体温調節機能の破綻

中枢神経系の症状(異常な行動、混乱、昏睡など)

直腸温40.5℃以上

アイスバス。

119番通報。

 

一般的に熱痙攣と熱失神は軽度の熱中症といわれています。一方で熱疲労は中度、熱射病は重度の熱中症です。

 

特に現場で働くうえで大事になってくるのは熱射病(Heat Stroke)に選手がなってしまった時の対応だと思います。熱射病の場合中枢神経系の働きが破綻している為、自然と体温が下がることはありません。また30分以内に体温を下げなければ後遺症が残る可能性があるうえ、最悪の場合は死に至ります。

 

現在熱射病対策のゴールドスタンダードとされているのは直腸温測定とアイスバスの使用です。まず熱射病が疑われた場合、直腸温を測定します。一般的に直腸温が40.5℃以上である場合熱射病とされています。もちろん直腸温が40.5℃以下でも中枢神経系の症状があり熱射病が疑われる場合は熱射病として対応します。

 

熱射病と判断したあとは即時にアイスバスによる処置をすることが望まれます。アイスバスは1.7℃から15℃くらいの水温になるように設定します。衣服やプロテクターなどが冷却効果を下げることは無いとされています。なので衣服などを気にせずに出来るだけ即座に選手をアイスバスに入れることが良いでしょう。時間はその時に寄りますが直腸温が38.9℃以下になるまで続けます。

 

  • 熱射病が疑われるときは30分以内に全身を冷却&119番通報
  • 水温は1.7℃-15℃

 

まだ実際に熱射病のケースに遭遇したことはありませんが、僕の職場でも夏季の練習の際は練習前からアイスタブに水を張っておき万が一の際にはすぐに使えるようにしています。 (水を貯めるのは結構時間かかります)。

 

予防

熱中症の予防としては、内的な予防と外的な予防があります。内的な予防としては、まず当たり前ですが練習前、練習中、練習後の水分補給、十分な睡眠と栄養、体調管理が挙げられます。

 

暑い環境の中での練習中の水分補給ですが、15分ごとに200mlから350mlの水分を補給するのが良いとされています。ただ体の大きさや発汗量など個人差があるので、この値はあくまで参考です。

 

個人的におススメなのは練習の前後に体重を測ることです。練習の前後での体重の増減はほぼ体内の水分量の変化なので、体重を測ることでどのくらい練習中に水分を失ったかが分かります。(*練習の前後で同じような服装で、練習後は汗をかいた服ではなく乾いている服に着替えて測定してください)

 

一般的に減少量が体重の2%を超えると脱水状態であるとされています(子供の場合は1%とも言われています)。もし、練習後に体重を測って練習前の体重の2%より多く減っていた場合は意識的に水分を補給し次の日の練習前には体重を戻すように心がけましょう。

  • 15分おきに200ml-350ml (目安)
  • 練習前後で体重の変化は2%以内に!!

 

次に外的な予防としてはAcclimatization (順応化)とスケジュールの調整が挙げられます。ほとんどのスポーツが一年中ずっとインシーズンの日本ではあまりAcclimatizationという概念はなじみがないかもしれません。Acclimatizationとはその名の通り気候に体を徐々に慣らしていくことを指します。

 

一般的に人間の体は1-2週間でその気候になれるといわれています。もう少し具体的に言うと発汗量が変化したり汗中のナトリウム量が減ったりして高温の環境でより長く活動できるように体が変化します。アメリカの大学やいくつかの州の高校ではルールとしてアメフトのシーズンの最初の練習はこのAcclimatizationのプログラムを実施することが義務付けられています。

 

日本はシーズン制ではないのでAcclimatizationプログラムを実施する必要性は薄いかもしれませんが、人間の体が暑さになれるには1-2週間ほどかかる為、急に暑くなった日などは熱中症に対する注意が必要です。

 

次の外的な予防法として挙げたスケジュールの調整ですが、これはシンプルに気温によって練習量を調節したり、練習時間を変更しましょうという事です。ここで役に立つ指標として挙げられるのがWBGTという指標です。WBGTは気温だけでなく湿度や輻射熱も考慮に入れられる為、熱中症対策としてより有効な値です。

 

日本スポーツ協会のガイドラインに寄りますとWBGTで31℃以上は原則運動中止、28℃以上で厳重警戒、25℃以上で警戒となっています。

 

  • WBGT

    31℃>: 原則運動禁止
    28℃-31℃: 厳重警戒 (運動内容の変更)
    25℃-28℃: 警戒 (こまめな水分補給)

 

まとめ


今回、熱中症についてまとめてみました。たかが熱中症と思うかもしれませんが、熱射病になってしまった場合、最悪のケースでは死に至ってしまうほど危険なものでもあります。一方で熱射病に万が一なってしまった場合でも、30分以内にアイスバスによる全身冷却が行えればほぼ100%助かるという事も事実です。なので個人的にはアイスバスの設備はAEDと同程度必要な設備だと思います。

 

アイスバスですが全身が入るぐらいのポリバケツと氷があればよいのでそこまでコストはかかりません。日本でも今後、熱中症対策として普及していけばいいなと思います。(あと練習後のリカバリーとしても使えます。)

 

また練習のスケジュール調整や練習内容の変更などはコーチが最終的には決めることなので、トレーナーとしてはあらかじめWBGTが何度になったらどうするという事を決めておくと、いざ気温が高かった時にスムーズにコミュニケーションが取れるでしょう。

 

ではまた。