【レビュー】 CAIの新しいモデルが出ました
こんにちは。イマザキです。
今月のJournal of Athletic Trainingは足関節捻挫特集で、掲載されていた論文がすべて足関節捻挫に関する研究やレビューだったのですが、その中でJay Hertel氏の最新のChronic Ankle Instability(CAI)のモデルに関する論文が現在のCAIに関する研究を包括的にまとめており、今後足関節捻挫を研究する上でも、現場でトレーナーとして働く為に論文を読む上でも非常に参考になると思ったので紹介したいと思います。
Chronic Ankle Instabilityとは?
Chronic Ankle Instability(CAI)とは本文には以下のように定義づけられています。
Chronic Ankle Instability is characterized by a patient’s being more than 12months removed from the initial lateral ankle sprain and exhibiting a propensity for recurrent ankle sprains, frequent episodes or perceptions of the ankle giving away, and persistent symptoms such as pain, swelling, limited motion, weakness, and diminished self-reported function
(Chronic Ankle Instabilityは最初の足関節捻挫から12か月以上経ってなお、足関節捻挫の再受傷や、足関節のgiving away、痛みや浮腫、可動域の低下、主観的な機能の低下などがみられることによって特徴づけられる)
難しく書いてある感じがしますが、簡単に言うと捻挫自体は治ったはずなのに捻挫が癖になっていたり、足関節がぐらついてる感じがずっと残っていたりするようなことを指します。文中にあるgiving awayという言葉ですがぐらついたり、抜けたりといった感覚を指す言葉で、今回のようなCAIの研究の他にもACLの研究や臨床などでもよくみられる言葉です。
これまでのモデル
本文中にもありますが、これまでCAIのモデルとしてよく使われてたのがMechanical InstabilityとFunctional Instabilityの2つの要素からなるモデルかそこにRecurrent Ankle Sprainを独立の構成要素として加えた3つの要素からなるモデルです。
Mechanical Instability(機械的不安定性)とはその名の通り、足関節を構成する組織自体の損傷によっておこる不安定性を指します。足関節捻挫で言うと前距腓靭帯や踵腓靭帯等の断裂や伸張によって本来の安定性が失われていることを指します。測定にはArthrometerやStressレントゲン検査などで動いた角度や長さなど用います。
一方Functional Instability(機能的不安定性)とはgiving away、バランス能力の低下、筋力の低下など機能面や主観的な症状を指します。ほかにもPerceived Instabilityなど他の名前で呼ばれることも多くあります。多くの要素からなる為、測定にはその測定項目に合った測定方法を用います。
2つの要素からなるモデルではMechanical InstabilityとFunctional Instabilityが重なり合った結果足関節捻挫を再受傷するという事が提唱されていました。一方そのモデルを発展させた3つの要素からなるモデルでは、足関節捻挫の再受傷は独立した要素として存在し、それぞれの要素の組み合わせで患者が示す症状を表すことが提唱されていました。ちなみに僕は修論ではこの3つの要素からなるモデルを参考にしました。
新しいモデル
今回提唱された新しいモデルは以下の8個の要素からなっています。
1. Primary tissue injury
2. Pathomechanical impairments
3. Sonsory-perceptual impairments
4. Motor-behavioral impairments
5. Personal factor
6. Environmental factor
7. Components interactions
8. Spectrum of clinical outcomes
それでは大まかにそれぞれの要素を見てみましょう。
①Primary tissue injury
これはその名の通り最初の足関節捻挫自体を指します。Primary tissue injuryが一つの要素となっている理由としてはCAIは足関節捻挫を機に発症する病態だからです。また、最初の足関節捻挫の程度は当然最終的なCAIの症状の程度に影響を与えると考えられます。
②Pathomechanical impairments
このPathomechanical impairmentsは従来のMechanical Instabilityに似ていると思います。しかしMechanical Instabilityが主にLaxity(緩さ)に重きを置いていたのに対し、このPathomechanical impairmentsという概念はArthokinematic restrictionsやOsteokinematic restrictions, secondary tissue injury, tissue adaptationという、足関節捻挫によって引き起こされるほかの解剖学的な変化も含まれています。
③Sonsory-perceptual impairments
Sonsory-perceptual impairmentsですが従来のFunctional instabilityやPerceived Instabilityの内、主にインプットの方に重点が置かれています。挙げられている要素としては、痛み、体性感覚の低下、感覚的な不安定感、主観的な機能低下、恐怖感、QOLの低下などです。
④Motor-behavioral impairments
Motor-behavioral impairmentsはSonsory-perceptual impairmentsとは逆に従来のFunctional Instabilityに含まれていたような要素の内、アウトプットに重点が置かれたものを含んでいます。具体的な要素としては反射系の変化や、筋神経系の抑制、筋力の低下、バランス能力の低下、運動パターンの変化、運動量の低下などが挙げられます。
⑤Personal factor
これはその名の通り、その人が足関節捻挫をする前から持っていた要素になり、性別や身体構成といったものから、普段の活動量、心理的な特徴など多くの要素を含みます。
⑥Environmental factor
こちらは逆にその患者の外的な環境を表します。例えば、適切な治療やリハビリが受けられるのかという事や、普段行っている職業や運動に対してどの程度足関節の機能が重要になるのか、また周囲の人からの期待などを含みます。
⑦Components interactions
これはそれぞれの要素間の相互関係を指しています。本文中ではキーワードとしてSelf-Organization、Perception-Action CycleそしてNeurosignatureという用語が使われています。
簡単に説明しますとSelf-Organizationとは人間の体は自然と問題があったとしても目的を達成しようと働くことを指しています。本文中で挙げられているのは歩行の例で、人間が歩行(目的)する際にたとえ背屈制限(問題)があって普段通りに歩けないとして歩くこと自体はできます。このように人間の体はたとえ本来なら望ましくない動きを含んでいたとしても目的を達成しようとします。
次のPerception-Action Cycleとは上に挙げたSonsory-perceptual impairmentsとMotor-behavioral impairmentsが互いに影響を与え合っているという事です。例えば、体性感覚が低下していると(Sonsory-perceptual impairments)と頼れる情報が減るわけですから当然バランス能力も低下します(Motor-behavioral impairments)。逆にケガによって普段と同じ動きができない場合(Motor-behavioral impairments)、主観的に違和感を感じますし、さらに神経系の入力にも普段と違うため問題が生じます(Sonsory-perceptual impairments)。
最後のNeurosignatureは簡単に説明しますと感覚器や感情などによる情報の入力から実際の行動までに脳を含む神経系で起こる一連の流れを表すようです。一言で言えば情報の処理の仕方でしょうか。例えば慢性的に痛みがある場合、単純な歩くという行動においても脳内のこのNeurosignatureが長期間の痛みの影響で変化し、ケガをする前と情報の処理の仕方が変わっている可能性があります。
これらのキーワードをまとめると、足関節捻挫によって入力(Sonsory-perceptual)、出力(Motor-behavioral)双方に普段と違う異常が発生し、それが長期間続くことにより情報の処理の仕方(Neurosignature)が悪い方向へ変化した結果CAIになってしまうといったところでしょうか。正直、Neurosignatureという言葉は初めて知ったので今後勉強していきたいです汗。
⑧Spectrum of clinical outcomes
今回のモデルが今までのモデルと大きく違うと思うのはこの結果をスペクトルで表しているという事です。図にもあるように、一番いい状態であるFull Recoveryから一番よくない結果であるRecurrent ankle sprainまでのどこかに落ち着くことになると示しています。
どのようにこのモデルを使うか?
ではこの新しいモデルをどのように使うと良いでしょうか?個人的にはリハビリの現場では足関節捻挫のリハビリの際の大きな指針になるのではと思います。例えば、足関節捻挫受傷後2週間ほど従来のリハビリをしていても改善が見られない場合、今回のモデルと照らし合わせて、著しく低下している機能または要素があった場合、そこを重点的に治療していくというとよいかもしれません。
まとめ
今回は新しく提唱されたCAIのモデルについて紹介しました。足関節捻挫は受傷する人が多いだけに研究の数も膨大で、自分の中でも色々な情報がごちゃごちゃしている状態でした。なので今回の論文で頭の中がすっきりした感じがします。またNeurosignatureなどの新しい概念も知ることが出来ました。
またこの論文のもう一つ優れていると感じた点は、162もの参考文献が載っていることです(普通の教科書の2~3章分あります)。なのでこれから卒論を書いていく学生には良い足掛かりになると思いますし、現場で働くトレーナーの方にとっても情報を得る際のとっかかりになるのではと思います。
それでは。