アスレティックトレーニング備忘録

米公認アスレティックトレーナーがスポーツ傷害、リハビリ、トレーニングなどについて不定期で書いてます。

エビデンスを用いるという事。EBPという考え方。

こんにちは。イマザキです。
ここ数年でメディカル、フィットネス業界でも“エビデンス”という言葉がよく使われるようになって来たと思います。今回はそんなエビデンスの話です。

 

エビデンスの話題になると、「治療やエクササイズの効果は個人差があるんだから当てにならない」という意見や、「俺はこのやり方でずっとやってきて効果があったんだ」という意見を聞いたことや見たことがあると思います。また鍼灸などの東洋医学に関してはそもそも研究の絶対数が少ないことなどもあり“エビデンス”という言葉に拒否反応を示す人もいると思います。
こういう意見に対して、論文の読み方、研究結果の解釈の仕方等を中心とした反論をよく見ます。それはそれでその通りだと思いますし、僕も参考にさせてもらっているのですが、そもそもエビデンスを用いるというのはどういう事なのかという視点が欠けているのではと感じていました。

 

1、EBPとは?
上にも書いたようにエビデンスを用いるとはどういう事なのでしょう?アメリカではこの問いに対してEvidenced Based Practice (EBP) / Evidenced Based Medicine (EBM)という考え方が一般的に使われています。このEBPは以下の3つの要素を基に構成されています。

  • Best Available Research (利用可能な最良の研究)
  • Clinical Expertise (臨床での経験)
  • Patient Value (患者の価値観、嗜好)

それぞれの要素の説明は後ほど行いますが、簡単にいうとこれらの要素をバランスよく自分の治療や運動処方に組み込みましょうという事です。ちなみにこの考え方はアメリカに来てから知りました。
ではそれぞれの要素を見ていきましょう。

 

2、Best Available Research、Clinical Expertise、Patient Value
Best Available Researchとはつまり現在得られる最高の研究結果です。上に挙げたよく見られる反論である論文の読み方や研究結果の解釈などはこのカテゴリーに属します。また個人的には日本人同士のエビデンスに関する議論はこのBest Available Researchという一つのカテゴリーに囚われすぎているのではないかと思います。

 

次にClinical Expertiseとは臨床での経験を指します。これはそのまま臨床での今までの経験を指します。やはり研究にも限界があり実際の治療となると論文や教科書には載っていないことが多々起こります。その時に役に立つのが今までの経験や経験者のアドバイスです。また徒手療法や東洋医学などは研究の数も少なくこのClinical Expertiseに寄るところも多くなってくるのではないでしょうか。

 

最後のカテゴリーはPatient Valueです。これは患者の好みや価値観の事を指します。いわゆる個人差というやつです。いくら研究で良いとされていたり、経験上効果があると思っていたりしても患者自身の意見を無視して治療を行うことはできませんよね?また様々な要因(既往歴や身体特性)によっていつも使っている治療法が選択できない時もあります。そういう時はその患者に合わせて治療法を変更、調整しなければいけません。

 

3、エビデンスを用いるとは?
僕はエビデンスを用いた良い治療とはこれらの3つの要素をバランスよく含んだ治療だと思います。経験だけで治療法を決めず、逐一現在の研究結果と照らし合わせてみる。研究では治療法Aが一番効果があると出ていても患者に合わなかったら次善の治療法Bを試してみる。こういった反復がエビデンスを用いるということだと思います。

 

そして自分の治療をさらによくするためにはそれぞれの要素の能力を高めることが大切ではないかと思います。例えばBest Available Researchの能力を高めるために研究結果を解釈する能力を高めるとか、Clinical Expertiseの能力を高めるためになるべく多くの症例に触れるなどです。


また個人的にこのEBPという考え方のいい点は、東洋医学など比較的研究の少ない分野でも用いることができる点だと思います。確かに臨床で使えるような研究結果が少ないとBest Available Researchの要素はほかの二つと比べて弱くなってしまいますが、EBPという考え方を念頭に置いて常に研究にも目を向けていれば、まだ研究結果が臨床に追いついていなかったとしても十分EBPを実践している、つまりエビデンスを用いているといっていいのではないかと思います。

 

まとめ
EBPという考え方について少しはご理解いただけたでしょうか?個人的には“エビデンスを用いた治療”=“論文を読む、研究であったことを使う”っていう単純なことじゃなくてもっと幅広い要素を含んでるんだよーという事が伝わればいいなと思いました。
ではまた。